2025.12.24あらたか

「僕、本が大好きなんです」
そうはっきりと仰るAさまは、娘さまのために本を選ぶうちに本好きが高じ、ご自宅で絵本を中心とした私設図書館を開設してから、今年で50年になります。地域に根付いたその図書館は、現在は奥さまが中心となって運営され、今も絵本を読みに来る子どもたちでにぎわっているそうです。そんなAさまのカバンにはいつも一冊の本が入っていました。
そこで、「hanare宝塚(小規模多機能型居宅介護)」でも小さな文庫をいっしょに作ってみませんか――とAさまをお誘いしみました。「ぜひやりましょう!」と快く応じてくださったAさまとともに本を整理し、看板を作って、棚の一角に小さな小さな文庫ができあがりました。
それからしばらくすると、フロアではスタッフと一緒に読みたい本を選んだり、文庫の前のソファーに座って本を広げたりする利用者さまの姿を見かけるようになりました。人気なのは、美空ひばりの特集雑誌や歌の本でしょうか。かわいい挿絵の絵本には、隣で読むスタッフも癒されています。
クリスマスも近づいてきた12月、hanare宝塚では近所の小学校育成会の子どもたちへ、今年もプレゼントを贈ることとなりました。そこで出番なのがAさまです。長年、子どもたちのために本を選び続けてこられたAさまに、選書をお願いしました。
「本当ですか?」と少し驚かれながらも、一緒に本屋へ行くことをとても楽しみにしてくださいました。
久しぶりの本屋の雰囲気に、はじめは少し戸惑いも見られましたが、次第にご自身で棚から本をとられるようになり、「長新太さんは間違いない」「宮沢賢治ははずせないな」など、さすがの目の付けどころで、次々と本を選んでくださいました。その中から厳選した3冊を育成会の子どもたちへプレゼントすることにしました。
本とともに、クリスマスリースもお渡ししました。爪が赤くなるほど丁寧に色を塗ってくださった方、角を整えてきっちり包装してくださった方など、たくさんのご利用者さまが子どもたちのためにと快く協力してくださいました。

当日は都合によりスタッフが代表して育成会に持参しましたが、子どもたちからは、なんと手作りのブーツにたくさんのお菓子を詰めたプレゼントをいただきました。さっそくブーツをフロアに飾り、みんなでおやつを味わいました。「おいしいね」「かわいいブーツね」と会話もはずみ、心温まるすてきなクリスマスの時間を過ごすことができました。
「全部自分で目を通して本を選んでいたのですが、もう本の内容は覚えていないと思います」とAさまの奥さまは少し寂しそうに仰います。それでも、文庫の看板を作ったり、本を選んだりしたその瞬間は、Aさまはたしかに充実した時間を過ごされていたと思うのです。「本を集めていくのは楽しかったですよ」と穏やかな笑みを浮かべて振り返るAさま。その心には、子どもたちに、そして本に注いだ強い想いが今でもなお深く根付いている――そう感じたクリスマスでした。