2025.06.09あらたか
長い廊下に貼られた子どもたちが描いたたくさんの絵。影が伸びる放課後の静かな校舎。その中をゆっくりと歩きながらYさまは「厳粛な気持ちになりますね」と仰いました。5月も終わるというある日の午後、最近「hanare宝塚(小規模多機能型居宅介護)」をご利用され始めたYさまが、何十年ぶりかに小学校の校舎に足を踏み入れた日のことです。
歌や絵を描くことがお好きなYさまですが、持病の影響から不安感が強く、帰る時間を気にされることがたびたびありました。少しでも楽しんでいただければとキーボードにお誘いしたところ、慣れた手つきで和音を鳴らされたのです。感心したスタッフが尋ねると、若いころは幼稚園の先生をしていたとのこと。「免許をとるのにピアノを練習したんです」と、恥ずかしそうにほほ笑まれました。
時期を同じくしてhanareでは近隣の小学校育成会(学童保育)の子どもたちとの交流会を企画しており、Yさまにhanareを代表としてご参加いただけないかとお願いをしてみました。少し驚かれながらも、まわりの応援もあって大役を引き受けくださることになったのです。
育成会に到着すると40名の元気な子どもたちが一斉に出迎えてくれました。最初は少し戸惑っていたYさまでしたが、子どもたちから名前を呼ばれると、にっこりと手を振って応えてくださいました。この日のために利用者さまたちに手伝ってもらい作成した「こいのぼり釣りゲーム」を持参し、いざ勝負です!
折り紙で作ったこいのぼりの裏には数字が書かれていて、合計得点が高いチームが勝ちです。中には「×(かける)」もあり高得点が狙えるとあって子どもたちは歓声をあげながら楽しんでくれました。Yさまはその姿を目を細めて見守りながら、いっしょに声を合わせて合計得点の計算をしてくださいました。さらに子どもたちの前で歌詞を書いた模造紙を持ち、いっしょになって童謡『かたつむり』を歌ってくださいました。その姿は、幼稚園の先生として子どもたちと過ごした日々につながっているようでした。
最後に代表の子どもたちの丁寧なお別れの挨拶に、「ありがとう」とやさしく微笑まれたYさま。帰園後には「最近は子どもたちと触れ合うことがなかったので、とてもいい思い出になりました」と仰られました。
病気によって見えにくくなっていた心の奥の輝き――。その大切な記憶に、子どもたちの小さな手がそっと光をあててくれたのかもしれません。Yさまにとって、心あたたまるひとときとなったことと思います。