2024.06.04あらたか

【hanare宝塚】新緑の季節に

街路樹の緑が日増しに濃くかがやく季節、あたたかな陽気に誘われて、hanare宝塚(小規模多機能型居宅介護)では久しぶりにお庭でお茶会を開催しました。窓越しに見るアオキの葉も日差しを浴びて一層濃く生き生きとしており、こんな日は誰でもちょっと外で息抜きをしたくなるものですね。利用者の皆さまもそんな気持ちではなかったでしょうか。

「今日は外でおやつにしませんか?」とお誘いすると、最近少し気分がふさいでいたTさまがにっこり。爽やかな風が通ると「気持ちがいいね」と空を見上げられていました。
「見てごらん、新芽がこんなにきれい」と声をあげたのはMさまです。よく見るとアオキの若葉があちらこちらで瑞々しい黄緑色をのぞかせていました。その一つをそっと手に取ったMさまは「やわらかいね」とほほ笑み、大事そうにテーブルの上に置かれました。お茶会のおやつは水ようかんです。「おいしいね」「やっぱり外はいいね」と利用者さま同士の会話も弾むのでした。

 新緑に囲まれてみんなで会話を楽しむのも良いですが、じっくりと季節の移り変わりを味わった方もいます。ご主人と二人三脚で園芸のお仕事をされてきたYさまは、最近では疾患からベッドで臥床する時間が長くなり、意思を伝えることも時には難しくなってきています。それでも体調の良いときは「ありがとね」と笑顔を見せてくださるYさまに、スタッフの誰もが大切な贈り物をもらったように心が温まるのです。

Yさまが来ると診察室が急ににぎやかになるんですよ――と、昔馴染みのドクターが笑うほどおしゃべりが大好きだったYさまは、その日は体調も良く、おしゃべりをたくさんされていました。聞き取れる言葉は断片的でしたが、楽しそうな気持は伝わってきます。そんなYさまをお散歩に誘いました。車いすに乗って上を見つめているYさまの顔に、風に揺れる木漏れ日が注ぎます。腰をかがめて同じように見上げると、鮮やかな緑の葉の向こうに突き抜けるような青空が広がっていました。「きれいですね」というスタッフの言葉に返事はありません。風が木々をゆらす葉擦れの音だけが、ゆったりと二人を包んでいるようでした。

その時「風が寒いな……冬ほどじゃないけどな」とYさまがつぶやいたのです。思わずYさまの顔を見つめましたが、Yさまは先ほどと同じように穏やかな表情で空を見上げておられました。言葉を伝えられないもどかしさ、思うように体を動かせない日々の中で、あたたかな日差しや木々をゆらす風を感じる時間がいかに尊いものなのか――。ふいにこぼれたYさまの言葉は、新緑の季節の中でなおいっそう輝いていました。